うるうる麗しき奇稲田姫さま

川越の總鎮守である川越氷川神社(川越市宮下町)、さいきん縁結びスポットとして大そうにぎわっているそうな。なんでも、毎朝お祓いをした白い小石「縁結び玉」を配布(個数限定)していて、これが縁結びに絶大な効験があるとかで、とくに若い独身女性の人気を集めています。なかには東武東上線の始発電車に乗って「縁結び玉」をいただきに来る熱心な方もいらっしゃるようで、恋愛というのは、している時はもちろんのこと、恋愛をする前からも非常に大きなパワーを必要とされるのだとつくづく思う次第であります。

ところでこの川越氷川神社、なにゆえ縁結びの神社とされているのでしょうか???

詳しいことは神社に聞いてみないとわかりませんが、おそらく御祭神に関係していると思われます。川越氷川神社の御祭神は、素盞嗚尊(すさのおのみこと)・奇稲田姫命(くしいなだひめのみこと)・手摩乳命(てなづちのみこと)・脚摩乳命(あしなづちのみこと)・大己貴命(おおなむちのみこと)の5柱です。このうち素盞嗚尊(須佐之男命とも)は天照大御神(あまてらすおおみかみ)の弟として有名ですよね。5柱目の大己貴命はまたの名を大国主神といいまして、そうです、縁結びで全国的に有名なあの出雲大社の神様なのです。

ところが、そのほかの3柱の神様についてはあまりご存知でない方が多いと思われます。これら3柱の神様もまた出雲の神様で、八俣大蛇(やまたのおろち)の神話に由緒があるのですが、これについて少し説明いたしますと、あるとき高天原から出雲に降り立ったスサノオさんが、泣いている老夫婦とその娘に出会います。なぜ泣いているのかと聞いてみると、八つの頭と八つの尾をもったヤマタノオロチに娘さんが食べられてしまうとのこと。見れば、とても麗しい娘さんが「助けて」と言わんばかりに瞳をうるうるさせている。そこは正義感に篤いスサノオさん、娘さん目当てかどうかわかりませんが、さすがに見過ごすわけにはいきません。そこで、ヤマタノオロチに酒を飲ませて眠らせるという計略でもって、ヤマタノオロチを剣で切り刻んで退治したという。その後、スサノオさんはその娘さんを妻として迎えるわけでありますが、その娘さんこそ川越氷川神社の御祭神の一柱、麗しき奇稲田姫さまなのであります。そして、その両親が手摩乳命と脚摩乳命の老夫婦ということになります。

氷川神社2

川越市内の稲田

この奇稲田姫命さまは「櫛名田比売(くしなだひめ)」ともいいまして、これはスサノオさんがクシナダちゃんを櫛に変えて頭髪に刺したことに因む名前です。そもそもは「稲田」とあるように、クシナダちゃんは稲田や稲の女神様なのだと思いますが、ヤマタノオロチの苦難をのり越えてスサノオさんと夫婦になったことから、縁結びの女神様として親しまれているのではないでしょうか。スサノオさんが作った「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を(やくもたつ いづもやへがき つまごみに やへがきつくる そのやへがきを)」の歌は有名ですよね。何重にも垣をめぐらした宮(住まい)に妻を置くなんて、スサノオさんはクシナダちゃんのことをとても愛していたのでしょう。そうした仲むつまじい夫婦のお姿を象徴するかのように、川越氷川神社の境内には2本のケヤキ(欅)の御神木(樹齢約600年)があります。写真手前がスサノオさんで、写真奥がクシナダちゃんでしょうか。良縁祈願で川越氷川神社を訪れた参拝者は本殿を拝礼したあとに、このケヤキを8の字で巡って願掛けをするのだとか。数字の「8」は○(円・えん)が2つあることから、えん(縁)を結ぶという意味があるのでしょう。

なので、ここで良縁祈願するときは、奇稲田姫さまのことを想いながら祈願してくださいね。そうしないと、「あたしのことを何も知らないくせに、お願い事だけするなんて、ぷんぷん」と怒ってしまわれるかもしれません。というのは冗談ですが、参拝のときには気をつけなければならないことがあります。よくパワーをいただこうとして御神木に触れている人を見かけますが、これをするときは手を入念に洗い清めてからでないといけません。それこそ「Don’t touch me! 汚い手であたしに触らないでちょうだい!」とクシナダちゃんに怒られてしまいますよ。もしくは、スサノオさんに触れた場合は「あたしのダーリンに手を出さないで!」と焼もちをやかれてしまうかもしれません。いずれにしても、麗しき奇稲田姫さまを悲しませ、うるうる涙ぐませるような行いは、けしてなさりませんように!  (赤木)

Author: ヒキコマ、ハジマル。